
4.1 本件が示した構造的欠陥の総括
静渓ポンプ場問題は、単なる「工事の失敗」や「契約トラブル」ではない。
明らかになったのは、行政・議会・技術・説明責任のすべてが同時に機能不全に陥っていたという構造的危機である。
| 分野 | 欠陥の内容 | 結果 |
|---|---|---|
| 行政 | 技術者不在、安易な設計一括処理、責任回避型の協議処理 | 公共事業の質と安全性が担保されない |
| 技術 | 国家資格保有者ゼロ、外部委託任せの設計監理 | 施工判断能力の欠如 |
| 議会 | 行政の要請に従い非公開化、全議員秘密会で手続回避 | 監視機能の消滅 |
| 記録・説明 | 議事録未作成・限定公開・責任不明の説明文書 | 市民の知る権利の剥奪 |
| 財政 | 起債・補助金を含む3億7千万円超の損失 | 将来世代への負担増 |
この構造的欠陥を是正しない限り、
同様の失敗は他の公共事業でも必ず再発する。
4.2 技術面の再建 ― 「発注者能力の回復」
最優先で取り組むべきは、発注者としての技術力の再建である。
(1) 技術職員の配置と資格取得支援
- 市役所内に**国家資格(土木施工管理技士・技術士・RCCM等)**を持つ技術者を採用または育成。
- 技術系職員がゼロという状態を放置すれば、設計・契約の妥当性を判断できない。
- 近隣自治体や府県との技術職人材交流制度を検討し、外部から専門監理者を招聘する仕組みを整備する。
- 民間事業者から技術者を好待遇で引き抜き技術系職員の育成を進める。
(2) 設計発注の適正化
- 「複数施設一括設計」などの不自然な発注形態を禁止し、個別設計・個別積算の原則を法的に明文化。
- 設計段階での**第三者技術審査制度(外部検証会議)**を創設し、
発注前に設計内容と積算根拠を外部有識者がチェックできる仕組みを導入する。
※「工事執行技術審査会」(仮称)と、舞鶴高専の教員による「技術アドバイザー制度」の創設はされていますが実効性は見えない。
(3) 技術的説明責任の制度化
- 市民・議会への説明の際には、技術責任者の署名と口頭説明を義務付ける。
- 「誰が設計の妥当性を確認したのか」が明確でなければ、再発防止は不可能である。
4.3 議会改革 ― 「秘密会の乱用を防ぐ仕組み」
(1) 秘密会開催要件の厳格化
- 地方自治法第118条の「3分の2議決」を徹底し、全議員秘密会を分科会形式で代替する手法を禁止。
- 「秘密会に該当する理由」「期間」「対象資料」を事前に文書で明示する規則を制定する。
(2) 議事録管理と部分公開制度の導入
- 秘密会であっても必ず議事録を作成・保存し、
個人情報や企業秘密部分を除き「要約版」を公開する。 - これにより、市民が意思決定過程を追跡できる最小限の透明性を担保する。
(3) 議会の独立した調査機能の強化
- 行政の説明に依存せず、議会が独自に調査・検証を行うための**「議会調査室」**の設置を検討する。
※本来は個々の議員がやるべきことだが議員の能力が低すぎて専門機関が無いと難しいため - 特に公共工事・財務情報・監査資料を常時監視できる体制を整える。
4.4 行政の説明責任改革 ― 「記録と説明を残す文化」へ
本件で最も象徴的だったのは、
「協議したが議事録を作っていない」という発言である。
これは法的にも倫理的にも許されない。
(1) すべての協議に記録を
- 行政・議会を問わず、会議・協議・合意形成の記録作成を義務化する。
- 形式を問わずメモ・要約・決定経過を残す「行政記録基本条例」を制定すべきである。
(2) 市民説明の公式化
- 市長・議長などの個人見解で説明文書を出すことを禁じ、
議会・行政として正式決定した文書のみ発行できるようにする。 - 説明文書は議事録とともにアーカイブ化し、後年検証可能な形で保存。
(3) 公金支出の全件公開
- 工事費・設計費・賠償金など、市が支出したすべての公金を
「契約情報オープンデータ」として公開。 - 事業別に「支出総額」「財源区分」「起債額」「補助金返還有無」を明示する。
4.5 市民オンブズマンの役割 ― 「記録と監視の市民化」
今回の調査で浮かび上がったのは、
行政も議会も自らの不透明さを自覚しておらず、
「監視されている」という意識が完全に欠如していることである。
そのため、市民オンブズマンの役割は単なる批判者ではなく、
記録を残し、記録を検証し、記録を公にする市民的機関として機能することが求められる。
市民オンブズマンまいづるの今後の行動指針
| 項目 | 行動 |
|---|---|
| ① 情報公開請求の継続 | 設計契約書・議事録・補助金関係文書・検証会議資料を順次開示請求する。 |
| ② 公開質問書の定期提出 | 行政・議会双方に対し、経過報告を求める質問書を継続発信。 |
| ③ 市民説明会の開催 | 開示された資料を市民にわかりやすく説明し、情報の共有と監視力の底上げを図る。 |
| ④ 提言書の提出 | 本報告書をもとに、議会運営委員会および市長宛に制度改革提言を正式に提出する。 |
4.6 結語 ― 「壊していいのは、機能しない仕組みだけだ」
静渓ポンプ場問題は、舞鶴市政の「構造的弱点」をすべて露わにした。
技術の欠如、責任の不在、記録の喪失、説明の拒絶――。
それらが積み重なって、3億7千万円を超える損失と、
市民の信頼喪失を招いた。
しかし同時に、
この失敗は舞鶴を変える再生の起点でもある。
壊していいのは、機能しない仕組みだけだ。
いま壊すべきは、行政の沈黙と議会の従属、そして記録を残さない文化である。
市民が知ることを恐れず、
行政が説明を誇りとし、
議会が監視を使命とする――。
その当たり前の政治を取り戻すために、
市民オンブズマンまいづるは、
この報告をもって新たな監視と提言の出発点とする。
🕊 市民オンブズマンまいづる 報告書(令和7年版)2025.11.06版


