
はじめに
舞鶴市において、久々となる大型事業案件が発表されました。
※舞鶴市は、株式会社ユビタスと平工業団地へのAIデータセンター建設に関する立地協定を締結しました。2027年中の竣工を目指し、約180億円の投資を計画しています。本事業を通じて、地域産業の高度化やIT人材育成、環境保全に向けた連携を推進します。
長く新たな動きが見えにくかった平工業団地への進出という点も含め、
市民の一人として、この発表を前向きに受け止めたいと考えています。
一方で、事業の規模や「AI」「データセンター」といった言葉が先行すると、
実態以上の期待や誤解が生じやすいのも事実です。
歓迎する気持ちと同時に、冷静に内容を整理し、現実的に評価する視点も欠かせません。
そこで本稿では、
今回のAIデータセンター立地事業について、
現時点で想定される良い点・悪い点を整理したうえで、
市民として知っておくべき現実と、今後の課題をまとめます。
賛成・反対を決めつけるためではなく、
事業を正しく理解するための材料として読んでいただければと思います。
① 事業概要
舞鶴市は、株式会社ユビタスと、
AIデータセンター建設に関する立地協定を締結した。
本事業は、平工業団地に日本国内最高クラスの計算基盤とされるAI GPUデータセンターを新設するもので、
経済産業省の大規模成長投資支援策に基づく、国・自治体・民間が連携する国策型プロジェクトと位置づけられている。
主な計画概要は以下の通りである。
- 立地場所:平工業団地(舞鶴市字平)
- 投資額:約180億円
- 竣工時期:2027年中(予定)
- 雇用規模:新規雇用 約3〜10名
- 組織体制:運営子会社「HikariX(ひかりえっくす)」の本社を舞鶴市に設立予定
本データセンターは、生成AI・大規模言語モデル等に対応する高性能GPUを中核とした計算基盤を提供する施設であり、
主な機能は計算資源の提供・運用に限定される。
なお、事業の性質上、
投資額の大部分はサーバー・GPU等の可動資産が占めるとみられ、
製造業の工場誘致のように多くの雇用や地元下請けを伴う形態ではない。
舞鶴市にとっては、
平工業団地の当該区画への企業進出は約35年ぶりとなり、
国のAI・デジタル基盤政策の一端を担う拠点が市内に設けられる、という位置づけになる。
② 事業が舞鶴にもたらす良い点
今回のAIデータセンター立地事業については、
過度な期待とは切り離したうえで、現実的に評価できる点がいくつかあります。
① 国策と連動した事業である点
本事業は、経済産業省の大規模成長投資支援策に位置づけられた取り組みであり、
自治体単独ではなく、国のAI・デジタル基盤政策と連動した案件です。
舞鶴市が、
国が進める「国内計算資源の確保」「生成AI基盤の整備」という流れの中で
一定の役割を担う拠点として選ばれたこと自体は、
立地条件やインフラ面が評価された結果といえます。
② 電源立地地域としての特性が活かされている点
AIデータセンターは、
雇用よりも電力の安定供給と土地条件が重視される施設です。
舞鶴市は電源立地地域としての特性を持ち、
工業団地内に比較的まとまった用地を確保できる点から、
事業内容と立地条件が一致している案件といえます。
「舞鶴だからこそ成立した事業」である点は、
一定の評価が可能です。
③ 平工業団地の活用につながる点
平工業団地の当該区画への企業進出は、
約35年ぶりとされています。
長期間動きのなかった区画に具体的な事業計画が入ったことは、
工業団地の遊休化を防ぐという意味で、
市にとってプラス要素です。
④ 雇用規模を過大に見せていない点
本事業による新規雇用は約3〜10名とされています。
これはデータセンターという事業特性を踏まえれば妥当な数字であり、
雇用人数を過度に強調していない点は、
比較的正直な説明といえます。
期待値を煽る表現が抑えられている点は評価できます。
⑤ 市単独では実現困難なインフラ水準に触れられる点
AIデータセンターの立地に伴い、
電力・通信・災害対応など、
国仕様に近いインフラ水準が求められます。
これは市単独では整備が難しい分野であり、
結果として、地域全体の基盤レベルが引き上げられる可能性があります。
小まとめ(良い点)
今回の事業は、
- 雇用創出型の事業ではないが
- 税収効果も限定的だが
その一方で、
- 国策との接続
- 電源立地地域としての適合性
- 遊休地活用
- インフラ面での一定の効果
といった点では、評価できる要素を持つ事業といえます。
③ 悪い点
今回のAIデータセンター立地事業については、
評価できる点がある一方で、事業の性質上、あらかじめ認識しておくべき弱点やリスクも存在します。
ここを曖昧にしたまま進めると、
後になって「話が違う」という不信感につながりかねません。
① 雇用効果が極めて限定的である点
本事業による新規雇用は約3〜10名とされています。
これは説明上は正直な数字ですが、
市民生活や地域経済全体に与える影響という点では、
極めて限定的と言わざるを得ません。
- 若年層の定住促進
- 雇用の裾野拡大
- 賃金水準への影響
といった効果は、ほぼ期待できない構造です。
② 「180億円投資」が地域経済に直結しない点
投資額約180億円という数字は非常に大きく見えますが、
その多くはサーバー・GPU・ネットワーク機器などの可動資産と考えられます。
これらは、
- 多くが市外・国外製
- 数年で更新・入れ替え
- 地元企業の継続的受注につながりにくい
という性質を持っています。
結果として、
投資額の大きさ=地域経済への波及効果の大きさ
とはなりません。
③ 固定資産税による税収効果が限定的である点
固定資産税の主な対象となるのは、
建屋や電源・冷却設備などの不動産・設備部分に限られます。
試算上、
20年間で得られる固定資産税は約4億円前後にとどまる可能性があります。
一方で、
- 立地に伴う補助金
- 固定資産税の減免
- インフラ整備費
- 行政対応コスト
を合算すると、
市が支出する金額の方が上回る可能性も否定できません。
④ 補助金・優遇措置の全体像が見えにくい点
本事業は、
- 国の支援策
- 電源立地地域に対する支援
- 自治体独自の優遇措置
が重なっている可能性があります。
しかし現時点では、
- 市が最終的にいくら負担するのか
- どこまでが補助で、どこからが市の実費なのか
が、市民に分かる形で整理されていません。
「投資額」は示されているが、「公的負担額」は示されていない
点は、大きな課題です。
⑤ 製造業誘致と同列に語れない点
データセンターは、
製造業の工場誘致とは経済構造が全く異なります。
- 下請け・協力会社の広がり
- 物流
- 雇用の多層構造
といった効果は、ほとんど見込めません。
それにもかかわらず、
過去の大型製造業誘致と同列に扱うと、
市民の期待値だけが過剰に上がるリスクがあります。
小まとめ(悪い点)
今回の事業は、
- 雇用が少ない
- 税収効果が限定的
- 投資額の多くが地域に残らない
- 公的負担の全体像が見えにくい
という構造的な弱点を抱えています。
これらを理解しないまま評価すると、
事業そのものではなく、説明の仕方が問題になる可能性があります。
④ 現実論
今回のAIデータセンター立地事業を評価するうえで、
最も重要なのは、期待と現実を切り分けて考えることです。
事業そのものと、そこから派生して語られる構想を混同すると、
議論は必ず曖昧になります。
① AIデータセンターは「活用拠点」ではない
AIデータセンターは、
AIを活用する場所ではなく、計算資源を提供する場所です。
- 観光施策
- 福祉サービス
- 教育現場
といった分野でAIを活用するためには、
- 個別の事業設計
- 専用の予算
- 担当部署
- 人材の確保
が別途必要になります。
データセンターが市内に立地したからといって、
自動的にAI活用が進むわけではありません。
② AI×観光・福祉・教育は「別事業」である
「AI×観光」「AI×福祉」「AI×教育」といった構想は、
方向性として否定されるものではありません。
しかし現時点では、
- 実施時期
- 具体的な事業内容
- 予算規模
- 事業主体
が示されておらず、
データセンター立地事業とは切り離して評価すべき段階にあります。
これらを一体の成果として語ることは、
現実的な政策評価を難しくします。
③ 地元企業活用・人材育成との距離感
データセンターの運営は、
高度に自動化され、少人数で行われます。
そのため、
- 地元企業が継続的に関与できる範囲
- IT人材が現場で育つ余地
はいずれも限定的です。
地域産業の高度化や人材育成を目指すのであれば、
それは教育・産業政策として別途設計すべき課題です。
④ 税収・雇用を主目的にした評価は成立しない
本事業は、
- 雇用創出
- 税収拡大
を主目的として評価できる性質の事業ではありません。
評価軸を誤ると、
「期待していた効果が出ない」という形で、
後に不満が噴き出すことになります。
この事業は、
国のAI基盤政策の一端を、
電源立地地域として担うインフラ型事業
として捉える必要があります。
⑤ 「夢」と「数字」は分けて語る必要がある
将来像やビジョンを語ること自体は重要です。
しかし、
- 投資額
- 雇用
- 税収
- 公的負担
といった数字の話と、
- AI社会
- 地域変革
- 新しい日本の形
といったビジョンの話は、
同じ文脈で語るべきではありません。
両者を混ぜると、
事業の評価が曖昧になり、
結果として市民の理解を損ねます。
小まとめ(現実論)
今回のAIデータセンター立地は、
- 単体では地域を変える事業ではない
- 雇用・税収の切り札でもない
- AI活用政策とは別枠で評価すべき事業
です。
その現実を直視したうえで、
市として何を得て、何を差し出しているのかを
明確にすることが求められます。
④ 現実論(市長コメントを踏まえて)
今回のAIデータセンター立地事業については、
市長から次のようなコメントが発表されています。
「今後は地元企業の活用や生成AI技術による地域産業の高度化、
IT人材の育成を推進する計画です。
AI×観光、AI×福祉、AI×教育など、
日本の新たな形を舞鶴から創っていく挑戦です。」
ビジョンとしては前向きであり、
将来像を示すメッセージとしての意義はあります。
しかし、事業評価の観点では、この部分を切り離して考える必要があります。
① データセンター立地とAI活用は因果関係ではない
AIデータセンターは、
AIを活用する現場ではなく、計算資源を提供するインフラです。
そのため、
- データセンターが市内に立地すること
- 観光・福祉・教育分野でAI活用が進むこと
の間には、直接的な因果関係はありません。
AI×観光、AI×福祉、AI×教育を実現するためには、
- 個別の事業設計
- 専用の予算措置
- 担当部署
- 実行主体
が別途必要であり、
データセンター立地だけで自動的に進むものではありません。
② 市長コメントは「構想」であり「事業計画」ではない
市長コメントで示されている内容は、
- 実施時期
- 具体的な事業内容
- 事業主体
- 予算規模
が現時点では示されていません。
そのため、
これらは現段階では構想・ビジョンの域を出ておらず、
AIデータセンター立地事業そのものの成果として
評価すべきものではありません。
③ 地元企業活用・IT人材育成との距離感
市長は「地元企業の活用」「IT人材の育成」にも言及していますが、
データセンターの運営実態を踏まえると、
- 運営は少人数
- 高度に自動化
- 専門性の高い領域は域外企業が担う
という構造です。
このため、
- 地元企業が継続的に関与できる範囲
- 人材が現場で育つ余地
はいずれも限定的と考えるのが現実的です。
人材育成や産業高度化を本気で進めるのであれば、
それは教育政策・産業政策として独立した事業として
設計・評価されるべきです。
④ 雇用・税収評価とビジョンを混同すべきではない
本事業は、
- 雇用:3〜10名
- 固定資産税:限定的
- 公的支援:相応に存在する可能性
という構造を持っています。
この事実と、
「AI社会を舞鶴から」というビジョンを
同一の成果として語ると、
事業の実態が見えにくくなります。
⑤ 現実的な位置づけ
現実的には、今回のAIデータセンター立地は、
- 国のAI基盤政策におけるインフラ拠点
- 電源立地地域としての役割分担
- 市の将来政策とは「直接は連動しない」事業
と位置づけるのが妥当です。
AI×観光・福祉・教育といった分野については、
別途、具体的な事業として市民に説明されるべき課題です。
小まとめ(現実論)
市長コメントに示された将来像は否定されるものではありません。
しかし、
- データセンター立地事業
- AI活用・人材育成構想
は切り離して評価しなければならないのが現実です。
両者を混同せず、
事業の実態と市の将来政策を
それぞれ正確に捉えることが、
健全な議論につながります。
⑤ 今後の課題
今回のAIデータセンター立地事業を、
舞鶴市にとって意味のあるものにするためには、
いくつかの明確な課題があります。
① 公的支援・補助金の全体像を明らかにすること
本事業は、
- 国の支援策
- 電源立地地域への支援
- 自治体独自の優遇措置
が重なっている可能性があります。
しかし現時点では、
- 市が実際にいくら負担するのか
- 税の減免やインフラ整備を含めた総額
- その見返りとして市が何を得るのか
が、市民に分かる形で整理されていません。
「投資額」だけでなく、「公的負担額」を示すこと
これは今後の説明において不可欠です。
② 事業撤退・縮小時のリスク整理
データセンター事業は、
- 設備更新が早い
- サーバーなど可動資産の比率が高い
- 事業環境の変化を受けやすい
という特徴があります。
万が一、
- 事業が縮小された場合
- 拠点が移転・撤退した場合
に、
- 補助金の返還条項はどうなるのか
- 建物やインフラは市にとって負担にならないか
といった点を、
事前に整理・説明しておく必要があります。
③ 固定資産税・税収効果の現実的な説明
本事業による固定資産税収は、
長期的に見ても限定的である可能性があります。
- 市民1人あたりで見た場合の効果
- 補助金・減免とのバランス
- 実質的な収支
について、
過度な期待を持たせない説明が求められます。
④ AI活用・人材育成は「別事業」として設計すること
市長コメントにある、
- AI×観光
- AI×福祉
- AI×教育
- IT人材育成
については、
データセンター立地事業とは切り離して、
- 具体的な事業内容
- 予算
- 実施時期
- 責任部署
を明確にしたうえで、
別途、市民に示す必要があります。
スローガンだけで終わらせないことが重要です。
⑤ 市として「何を取りに行くのか」を明確にすること
本事業は、
- 雇用
- 税収
を主目的とする事業ではありません。
だからこそ市としては、
- 災害時の優先利用
- 行政DXへの活用
- 公共分野での計算資源利用
- 情報・技術面での還元
など、
市民利益として何を確保するのかを
明確にする必要があります。
小まとめ(今後の課題)
今回のAIデータセンター立地は、
舞鶴市にとってチャンスであると同時に、説明責任が重い事業です。
- 期待を煽らない
- 数字を隠さない
- ビジョンと現実を分けて語る
この姿勢がなければ、
事業そのものではなく、
行政への信頼が損なわれる結果になりかねません。

