2.1 発端:不適切な地盤調査と安値落札

静渓ポンプ場事業の最大の構造的問題は、初期段階の設計・地盤調査の誤りにある。
当初の調査では「安定した砂礫層」と報告されていたが、実際には軟弱地盤が多く、
掘削後に想定を超える湧水・地盤崩壊が発生した。

さらに、設計業務は極めて**低い落札率(約45%)**で契約されており、
本来必要な地質調査や安全余裕を確保できなかった可能性が高い。
結果として、施工段階で想定外の地盤改良が必要となり、
設計変更や追加費用が相次いだ。

💬 「安値落札 → 不十分な調査 → 工事中断 → 損害賠償」
という典型的な“公共工事失敗の連鎖”が生じた。


2.2 契約解除の経緯:設計責任の所在があいまい

地盤崩壊を契機に、施工業者と市の間で工事継続の可否が協議されたが、
設計図書に基づく責任の所在が明確でなかったため、
最終的に市が契約を一方的に解除する形となった。

市は「請負契約上の瑕疵担保」や「履行不能」を理由とせず、
協議による合意解除としたため、設計上の誤りや監督責任の検証を回避している。

この結果、損害の一部(6,676万円)は「協議上の損害賠償」として支払われたが、
市の設計・監理の過失責任は一切問われていない。


2.3 検証会議の限界と“自浄能力の欠如”

令和6年度に設置された「検証会議」は、
市職員・外部有識者が参加する形式で開催されたが、
議論は**「原因の特定」ではなく「今後の方向性」**に重点が置かれた。

  • 検証会議費用:380,756円(一般財源)20251020市民オンブズマンまいづるへの回答資料 (1)
  • 会議では設計責任・地盤調査の不備への具体的検証はなされていない。
  • 会議録・議事概要の公開範囲も限定的で、透明性が乏しい。

つまり、検証会議は本来の“責任究明”ではなく、
行政に都合のよい「終結報告」のための形式的な場にとどまった。


2.4 議会の監視機能の形骸化

この一連の過程で、舞鶴市議会は本来果たすべき「監視と検証」の役割を果たせなかった。
とくに問題なのは以下の点である。

  1. 行政の申し出により「秘密会」扱いにしたことで、市民への説明責任を自ら封じた。
  2. 分科会での「了承」にとどまり、正式な秘密会議決手続を経ていない。
  3. 現時点(2025.11.6)では協議内容の議事録を作成しておらず、意思形成の痕跡が存在しない。

この結果、
「なぜ契約が解除されたのか」「どの段階で設計に問題があったのか」
といった基本的な論点が、市民の目に届かないまま幕引きされた。


2.5 責任の所在を曖昧にする構造

静渓ポンプ場問題では、

  • 設計ミスの責任:コンサル業者か、市か
  • 工事中止の判断:施工業者か、監督職員か
  • 賠償の決定:協議によるものか、法的責任によるものか

これらがいずれもあいまいなまま処理されている。

舞鶴市は「協議に基づく損害賠償」として支払いを行ったが、
これは本来、責任所在を明確にしないまま行政都合で示談処理したに等しい。

このような前例を放置すれば、
「市が失敗しても、責任を曖昧にして終わらせる」という構造が固定化し、
公共事業の信頼性を根底から損なう。


2.6 事業失敗の本質 ― 「安値受注と行政責任回避」の二重構造

静渓ポンプ場の失敗は、単なる技術的トラブルではない。
構造的には、次の二つの問題が重なっている。

構造内容
① 安値受注構造設計業務を過度に低価格で発注し、必要な調査・検証が不十分なまま設計を進めた。
② 行政責任回避構造施工不良が判明しても、行政が設計責任や監督責任を曖昧にし、損害を「協議」で処理。

結果として、
損失は市民と事業者に押し付けられ、行政内部の責任は問われていない。


2.7 根本的な要因 ― 技術者不在の行政体制

さらに深刻なのは、舞鶴市役所内に国家資格を持つ土木技術者が一人も在籍していないという事実である。
つまり、市は自らの内部に技術的判断を行える人材をまったく持たないまま、
大規模な土木工事を発注・監督していた
ことになる。

本来、発注者である自治体には、

  • 設計書や地盤調査結果の妥当性を精査できる体制
  • 現場監督・検査時に施工の適否を判断できる専門職
    が不可欠である。

しかし舞鶴市では、これらをすべて外部コンサルに依存しており、
行政としての技術的チェック機能が完全に欠如していた。
その結果、

「設計に誤りがあっても気づけない」
「工事が進んでも問題を検知できない」
「契約解除の妥当性を判断できない」
という三重の盲点が生まれた。

議会もこの重大な構造的欠陥を十分に把握していたはずだが、
誰一人として「技術者不在のリスク」を指摘していない。

つまり、失敗は起こるべくして起こったのであり、
「工事を失敗して当たり前」の体制下で税金が投入されていたことになる。


2.8 設計費の不自然な一括計上と再調査の必要性

市が市民オンブズマンに提出した回答資料20251020市民オンブズマンまいづるへの回答資料 (1)には、次の注記がある。

「※2の設計費には大手ポンプ場及び竹屋ポンプ場の設計費も含まれています。
(金額をポンプ場ごとに分けられない積算内容のため)」

この一文は、極めて異常であり、公共事業の常識から逸脱している。

本来、各ポンプ場はそれぞれ異なる立地条件・地盤特性・排水系統・施工環境を持ち、
当然ながら別個の設計契約と積算が必要である。
ところが舞鶴市は、静渓・大手・竹屋という三つの異なるポンプ場の設計を一本化して発注し、
しかもその内訳を「金額を分けられない」と説明している。

このような処理が行われた場合、次の重大な疑義が生じる。

  1. 設計積算の妥当性を検証できない
     → どのポンプ場にどれだけの費用が投じられたか不明。
     → 成果物の精度・内容が適正か判断不能。
  2. 事業会計・補助金管理の整合性が崩壊
     → 事業別予算執行の原則(会計法・地方財政法)に反するおそれ。
     → 国の補助金(50%負担)の使途区分が曖昧となり、返還リスクも生じ得る。
  3. 設計責任の特定が困難
     → 設計に誤りがあった場合、どの施設部分に責任があるのかを特定できない。
     → 結果として、行政側が「責任の所在不明」を口実に逃れる構造を助長。

2.9 「河川にポンプを置けばよい」という安易な発想

この異常な設計一括処理は、
「河川にポンプを設置できさえすれば事足りる」という極めて安易な行政発想に基づいている可能性が高い。

本来、排水ポンプ場の設計には、

  • 河川断面・流量解析
  • 地盤条件・支持層深度
  • 電力供給・制御盤配置
  • 周辺地形・建屋構造
    といった要素を個別に検討する必要がある。

それらを一括設計とするのは、現場条件の差異を無視した机上設計であり、
結果的に静渓ポンプ場のような施工不可能な設計が生まれた可能性がある。

💬 つまり、「安上がりな包括設計」が、“失敗を前提とした設計”になっていたのではないか。


2.10 今後の調査の必要性

この「設計費の一括計上問題」は、単なる積算上の瑕疵ではなく、
会計処理・補助金適正化・設計責任追及すべてに関わる重要論点である。

したがって、市民オンブズマンとして以下の調査を進める必要がある。

調査項目内容
① 設計契約書の確認契約件名・仕様書に「三施設設計」が含まれているかを確認。
② 積算内訳書の開示請求設計費を施設別に区分できない理由を検証。
③ 補助金交付要綱との整合性国の補助対象が「特定施設単位」であることを踏まえ、交付条件違反の有無を確認。
④ 設計責任の所在設計者・監理者・発注者の役割分担を明確化。
⑤ 他二施設(大手・竹屋)の設計再検証静渓と同様の構造的欠陥が潜在していないか調査。

🔍 まとめ

設計費を「三施設まとめて一式」として処理したことは、
公共工事の基本原則である「個別設計・個別会計・個別責任」に真っ向から反する。

この異常な一括設計こそ、静渓ポンプ場崩壊の根本的な伏線であり、
同じ設計を使った他のポンプ場にも潜在的なリスクを残している。

市民オンブズマンとして、この設計契約の実態と財務処理の正当性を、
引き続き徹底的に調査する必要がある。

\ 最新情報をチェック /