舞鶴市の大浦半島北東部、田井・成生(なりゅう)地区。行き止まりの地形に位置するこの静かな集落で、いま一隻の「空の船」のための港が作られようとしています。令和8年度の予算案に計上された「ヘリコプター臨時離着陸場整備事業費」。その資料を紐解くと、私たちが目を背けてはならない冷徹な現実が浮かび上がってきました。

1. 事務事業調が示す「破格」のスペック

まず、公開された事務事業調から事実関係を整理します。

  • 総事業費:1億5,082万円(見込)
  • 場所:旧田井小学校跡地(「田井原子力防災センター」隣接グラウンド)
  • 財源:1億2,650万円(令和8年度分)の全額が「原子力発電施設等立地地域基盤整備支援事業交付金」
  • 内容:単なる空き地の整備ではなく、地盤改良、舗装、さらには防風ネットの設置まで含まれる本格的な工事

特筆すべきは、補助率10/10(100%)という点です。舞鶴市の一般財源(市民の税金)を1円も使わず、すべて「原発マネー」で賄われるという、極めて特殊な予算構造になっています。

2. 積み重ねられる「脱出」への推論

このデータから、行政が描くシナリオを推論します。

推論①:救助ではなく「搬出」のための舗装 なぜ1.5億円もの巨費を投じて舗装し、防風ネットまで張るのか。それは、原発事故などの緊急時に自衛隊の大型ヘリが、砂塵を舞い上げることなく、200人の住民を機械的に、かつ迅速に「積み出す」ためのインフラが必要だからです。

推論②:自治体の「関与」からの撤退 この規模のヘリポート整備は、事実上、救出の主体を自衛隊に委ねることを意味します。市独自の救助体制ではなく、広域避難の枠組み(自衛隊機)に丸投げできる環境を整えることは、裏を返せば、最悪の事態において舞鶴市そのものが直接的な救出活動から「身を引く」ための準備とも読み取れます。

推論③:陸路復旧の「事実上の断念」 事業目的には「陸路・海路に加え、空路」による避難の重層化とあります。しかし、過疎地の道路復旧には数年単位の時間と莫大な費用がかかります。このヘリポートの完成は、行政にとって「道が死んでも、空から全員出せば責任は果たせる」という免罪符になりかねません。

3. 結論:これは「故郷を捨てるため」のコストである

以上の検証から導き出される結論は残酷です。この1.5億円は、住民がこの地に住み続けるための投資ではありません。最悪の事態が起きた際、その土地を効率よく「無人」にするための、いわば「故郷を捨てるための片道切符代」なのです。

4. 葛藤:この真実を誰が知っているのか

最後に、一人の市民として書き添えたいことがあります。

地域住民の方々は、このヘリポートの「真の目的」を知っているのでしょうか。 「立派な施設ができて、自分たちは大切にされている」という安心感の裏側で、実は「いざという時は自衛隊に任せてここから立ち退いてもらう」という冷めた通告が、1.5億円という数字に姿を変えて静かに置かれている。その事実に、どれほどの人が気づいているのでしょうか。

私は今、深い葛藤の中にいます。 長年その地で暮らしてきた方々の「故郷で生きたい」という願いと、行政が淡々と進める「効率的な搬出」という計算。そのあまりに大きな乖離を前にして、この事実を突きつけることが正解なのか、それとも、知らないままの安心を尊重すべきなのか。

1.5億円のコンクリート。それは、地域の誇りではなく、そこが「住む場所」から「運び出す対象」へと変質したことを示す、あまりに重く、冷たい記念碑のように思えてなりません。

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